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2向学の心やみがたきまま

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2向学の心やみがたきまま

大正十五年(1926年)〜昭和六年(1931年)

大正十五年十一月七日 受験放棄の叫び

 あまり向上や、名誉ばかり考えて生活していたら、遂に自分としての生活は無価値になってしまうように思われる。

 受験は自分にとって甚だ大事なものであり、当面唯一の目的であった。

 しかし高等文官試験にパスすることが、幾許の人間生活の保証をあたえるかを考えるとき、心細くなる。長い考慮の末、受験を放棄して先ず、生活の安定を得ることにようやく決断したからこそ、市役所から税務署に職務替えをしたものである。

 繊弱な婦女のみを家庭に持つ自分としての責任は、はなはだ重いのであって、受験放棄を決断した重大なひとつの理由であった。

 然るに一・二か月でその決断は揺らいで、やはり受験が気になり始めた。

 家庭は、優しい気分を与える安息の場であると共に、自分の向上を拘束する禍の場でもあると思うときがある。

 自分の受験への渇望が止まらない限り、今後も幾度か家庭の計画と、自分の欲望の矛盾による闘争があることだろう。そこでまた迷うことの不利益を少なくする意図によって次ぎの規律をたてるものである。

  『先ず、受験準備よりも自己そのものの向上に努力せよ。重要、作文、習字、日常知識、その他の研究。

  第二に家庭的、生産的なものに、力を尽くして尚余裕があれば、受験準備に奮励するも良しとす。』

 

大正十五年十二月二十五日 天皇崩御

 午前一時二十五分、天皇陛下、葉山にて崩御あらせらる。三十日まで服喪の期となり、音曲等停止せらる。

 

昭和元年十二月三十一日 座右録

<沈思黙考せよ>お前は少しでも人間の汚濁から逃れて、純真な喜びに浸るであろう。

<常に働きつつあれ>お前は働きの中から、慰安と悦びとを得るであろう。うれしいことに自惚れてはならない。それは、やがてお前の幸福を迫害するであろう。

<常に清き心をもて>何ものにも恐れることなく、何ものにも驕ることなく、何ものにも憚ることなき清き心を養え。

 

昭和六年十一月七日 後半生の一歩を踏み出すにあたって

 人間に生まれた満三十年を迎える。花も実も愈々これからだ。真の人生が那辺にあるかを識って翻然悪を改めて蘇生を期する。悪魔退散、画龍点睛の新面目を描出せねばらなぬ。

<心掛けること>

 一、健康維持−艱難に耐える体力づくり       一、精神修養−質実剛健の精神

 一、不断の努力−目的をたてて達成の努力      一、趣味と起居−活動と趣味を楽しむ生活

 一、悪いと判じたことの絶対拒否、為すべからざること。

     ・傲慢と卑屈 ・虚栄と好奇心 ・愚痴と不満 ・誹謗と人を咎めること

 何人と雖もわが心の自由を侵すことは出来ぬ。故に憂慮すべきことなし。

  膽心と勇気を養え、磊落にして快活であれ、善良で温厚なる人であれ。